| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-06 (Oral presentation)

生物的防除が非農耕地の生物の保全に及ぼす影響の数理モデル

*池川 雄亮, 江副 日出夫, 難波 利幸(大阪府大院・理)

生物的防除とは天敵生物を用いて農地内の害虫を駆除する方法である。近年、農地に隣接する非農耕地からの天敵の移入が防除効率を促進する一方で、農地内の天敵が非農耕地に侵入し、そこに生息する在来被食者に悪影響を与えることが示されている(非標的効果)。本研究では、害虫及び在来被食者を捕食する天敵(IG被食者)とそれらすべてを捕食する天敵(IG捕食者)が質(生産性、面積)の異なる農場と非農耕地を移動できると仮定した数理モデルを構築し、生息地の質及び天敵の移動性が非農耕地内の在来被食者への非標的効果の度合い及び農場内の害虫防除の効率に与える影響を解析した。

十分に移動性が高い1種の天敵のみを導入した場合、非農耕地が農地よりも面積が広く生産性が高いとき、非農耕地で増加した天敵が農場に流入することで非標的効果の軽減と効率の良い害虫防除の両立が可能であることが示された。だが、農地の面積も生産性も大きい現代の集約農業においては、上記の条件は現実的ではない。しかし、農地が非農耕地よりも広い場合でも、2種目の天敵として移動性が低いIG被食者を導入すると、移動性が高いIG捕食者のみの場合よりも在来被食者は増加し害虫は減少した。また、農地は非農耕地よりも広いが生産性が小さければ、2種目の天敵として移動性が低いIG捕食者を導入することで、移動性が高いIG被食者のみの場合よりも在来被食者は増加し害虫は減少した。これらはIG被食者(IG捕食者)の導入は常に被食者の密度を減少(増加)させることを示した先行の理論モデルでは見られなかった結果である。以上より、農業生態系における複数天敵の導入により、環境負荷の小さい生物的防除を実現できる可能性がある。


日本生態学会