| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-08 (Oral presentation)

耕作放棄地は湿地性生物種の代替生息地となりうるか?-耕作放棄地の時空間特性が湿地性オサムシの定着に与える影響-

山中聡(北大・農)*, 赤坂卓美(帯畜大・生命科学), 藪原佑樹(北大・農), 中村太士(北大・農)

人口減少下にある多くの地域において、将来の土地利用を大きく変化させると考えられるのが耕作放棄地の増加である。野生生物保全の観点からみると、放棄地での植生回復は農業活動などにより減少してきた野生生物にとって代替生息地として機能する可能性がある。また新たな生息地に野生生物が移入・定着するにはさまざまな時間的(放棄からの年数)および空間的な要因(パッチの質や移入ソースの量など)が影響する。このため本研究では農業活動により既存の湿地環境の多くが減少した北海道釧路地方を対象とし、時空間的要因が放棄地の代替生息地としての機能に及ぼす影響について湿地性オサムシ類を対象に明らかにした。湿地性オサムシ類の種数と個体数、種構成を新しい放棄地(1990年代以後に放棄)と古い放棄地(1980年代以前に放棄)、牧草地、湿地で比較したところ、放棄地において湿地性種の種数と個体数は湿地と同程度にまで回復しており、その種構成は牧草地よりも湿地と類似していた。さらに放棄からの年数は放棄地の土壌水分を上昇させ、土壌水分が増加するほど、放棄地の種構成は湿地に類似していた。一方で放棄地の種構成に周囲の湿地面積や放棄地のパッチ面積が及ぼす影響は限られていた。本研究の結果から放棄地を用いて湿地性オサムシ類の代替生息地として機能することが可能であると言える。また、代替生息地としての機能を高めるには放棄地パッチの質を向上させる(土壌水分を上昇させる)保全管理を行うことが有効であることを示唆する。


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