| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-09 (Oral presentation)

環境DNA分析を用いた水棲生物の河川における移動分散の把握

櫻井翔*,本澤大生(龍谷大・院・理工),三宅倫太郎,山中裕樹(龍谷大・理工)

河川には治水や利水の為にダム等、多くの河川横断構造物が存在しており、回遊を行う水棲生物の移動に影響を与えている。ただし、その程度は種によって異なると考えられ、極端な例ではモクズガニ(Eriocheir japonica)は魚道がない堤高44mのダムを超えたという報告がある。本研究ではボラ(Mugil cephalus)とモクズガニという回遊時の移動能力に大きな差があると考えられる2種に着目して、河川横断構造物が与える分布への影響の種間差について検討した。なお、両種の分布は水中に含まれるDNAをマーカーとして検出する環境DNA分析によって推定した。調査は河川横断構造物と水棲生物の分布情報が蓄積されている兵庫県の武庫川で実施した。河口から上流部の青野ダムまでにある23の河川横断構造物に注目してそれぞれの上流側で採水し、環境DNA分析によって分布を推定した。結果、ボラのDNAは魚道を通じて遡上可能な範囲からしか検出されなかった一方で、モクズガニのDNAは魚道のない構造物を超えた上流側からも検出された。両種とも海でのみ再生産し、河川内への放流記録がないことから、検出されたDNAは海から遡上した個体由来のものと判断できる。以上の結果は河川横断構造物が生物の分布へ与える影響は種によって異なることを示唆している。環境DNA分析は、河川横断構造物が与える影響の種間差についての情報の蓄積と、適切な魚道の設計や設置後のモニタリングに貢献できると考えられる。


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