| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-11 (Oral presentation)

オガサワラゼミの系統的位置と遺伝的多様性

*長太伸章(科博・標本資料セ), 大林隆司(首都大 / 都小笠原亜熱帯農セ), 林正美(埼玉大名誉教授)

小笠原諸島には多くの固有種が生息しているが、セミも固有種であるオガサワラゼミが父島列島、母島列島、聟島列島に分布している。しかし、本種は九州南部から沖縄にかけて分布するクロイワツクツクに非常に似ていることが指摘されており、オガサワラゼミは移入されたクロイワツクツクであるとの説もある。これは明治時代以降の開拓期には、アコウなどの樹木が琉球列島からもたらされていることなどが要因として挙げられている。一方、開拓前の江戸時代に書かれた調査日誌には父島でセミの鳴き声の記録があり、オガサワラゼミは在来種であるとも考えられている。そのため、オガサワラゼミの由来についてはまだ明らかになっていない。

近年、グリーンアノールなどの侵略的外来種が小笠原諸島に侵入し、多くの生物が危機的状況に追い込まれている。オガサワラゼミも近年急速に数を減らしており、保全対策等を考慮しなければならない状況にある。しかし、オガサワラゼミの由来や各列島間での分化の程度などについては不明なままである。そこで本研究ではオガサワラゼミと日本産の近縁種について分子系統解析を行い、オガサワラゼミの系統的位置を明らかにすることによって移入種か在来種かについて評価するとともに、小笠原諸島の列島間での遺伝的分化についても評価した。その結果、オガサワラゼミは明確なESUとして認識することができ、また列島間で遺伝的分化が進んでいることが明らかになった。そのため、今後はオガサワラゼミは小笠原諸島固有の生物であること、列島間や島間にも遺伝的分化があることを考慮して保全策をすすめる必要があると考えられる。


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