| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) I2-21 (Oral presentation)

ステークホルダーの多様性が生態系のレジリアンスを担保する条件

*谷内茂雄(京大・生態研),脇田健一(龍谷大・社会)

流域スケールの生態系を保全・再生する上で、その流域に多様なステークホルダーがいることはどんな意味を持つだろうか?農林漁業などの生業、虫採りや川遊びなどの体験、地域社会での学習や第三者からの伝聞などの経験を通じて、ステークホルダーは自分にとって好ましい生態系サービスを流域に見出す。この生態系サービスへの選好(preference)を媒介として、ステークホルダーは生態系を保全・再生するそれぞれの動機を獲得する。流域内に生態系サービスへの多様な選好があることは、短期的にはステークホルダー間の対立を生みだすかもしれない。しかし、長期的には予期できない生態系の改変に対する抵抗力・復元力(レジリアンス)を流域に蓄えることにつながるだろう(脇田 2001「地域環境問題をめぐる“状況の定義のズレ”と“社会的コンテクスト”-滋賀県における石けん運動をもとに」)。

本講演では、ステークホルダーの選好の多様性が生態系のレジリアンスに与える長期的な効果を、個体群生態学の方法によってモデル化し検討する。流域のステークホルダーを、生態系サービスの選好ごとにサブ個体群に分けることで、各生態系サービスを選好する個体数のダイナミクスを導入できる。このとき、ステークホルダーの選好の多様性と生態系レジリアンスの関係について、生物多様性と生態系機能の時間変動の安定性に関する「保険仮説(Yachi & Loreau 1999)」に対応した結果を導くことができる。

一方、戦後日本の歴史を振り返ると、世代交代、産業・経済構造の変化、過疎・人口減少に伴う地域社会の変化は大きい。30年~70年という時間スケールにおいては、生態系サービスへの選好の多様性が消失していく過程も無視できない。講演では、個体群存続可能性解析(PVA)の手法を用いることで、生態系レジリアンスの絶滅リスクについても検討する。


日本生態学会