| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) J3-34 (Oral presentation)

殺虫剤のローテーション散布は抵抗性発達を遅延させるか

*須藤正彬, 山中武彦 (農環研), 高橋大輔 (Umeå universitet), 鈴木芳人 (京都市)

ローテーション散布は、世代ごとに異なる剤を使うことで、剤あたりの選択圧を緩めることができると考えられており、複数剤の時空間的組み合わせによる殺虫剤抵抗性の発達遅延手法の中でも、農業現場で根強く支持されてきた。だがモデルを用いた先行研究では、2剤のローテーションで抵抗性が発達するまでの待ち時間は、それぞれの剤を連続して使い潰した時の、総世代時間を上回らないとの指摘もある。この齟齬の理由を明らかにするため、2倍体昆虫および施用区と保護区の2空間パッチを仮定した、シンプルな個体群動態モデルを構築した。

様々な害虫の生活史パターン、薬剤施用方法をシミュレーションしたところ、ローテーションでの抵抗性発達が連用時よりも有意に遅延するのは、成虫において交尾前後のいずれか一度だけパッチ間移動し、かつ薬剤選抜に討ち漏らしが無い場合に限られた。このとき施用区の個体群では、最初の剤によって抵抗性遺伝子を強く選抜されてしまうが、2世代目の幼虫時に別の剤によって殺されるため、抵抗性系統は増殖して保護区に移ることなく除去された。これ以外の生活史パターン・薬剤施用方法では、ローテーションの2剤双方に抵抗性が発達する時間は、2剤連用時の合計世代時間に等しかった。つまり各剤についての延命効果は認められるものの、薬剤のローテーションについて抵抗性発達までの総世代時間を遅延する効果は、一般には支持されないことが分かった。


日本生態学会