| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-100 (Poster presentation)

近縁な在来種と侵入種における耐凍性と低温順化能力の集団間分化

*上林真実・小口理一・尾崎洋史(東北大・院・生命科学)・森長真一(日大・生物資源科学)・彦坂幸毅(東北大・院・生命科学)

温度は植物の活動や生存に影響し、分布を規定する重要な要因である。植物の温度適応に関する性質は耐凍性、耐冷性、耐熱性など様々な種類があり、種間や同一種内の集団間で異なる。

近年、侵入種の分布が急速に拡大しており、悪影響が生じている。侵入種の大部分は短期間で日本の環境に適応し、分布を拡大している。在来種と侵入種では適応にかけられる時間の長さが異なることから、それぞれの種内における集団間の温度応答の変異パターンが異なるという仮説を立てた。

この仮説を検証するために、アブラナ科の在来種タネツケバナCardamine scutata と数十年前に日本に侵入してきた近縁種ミチタネツケバナCardamine hirsutaにおいて、温度応答に種間・集団間差があるのかを、耐凍性に着目して調べた。

東日本の異なる緯度から採種した両種を20℃と5℃で育て、葉の凍結温度と、凍結耐性温度LT50(クロロフィル蛍光値が50%低下する温度)を評価し、耐凍性と生息地の緯度・気候の関係や低温順化の影響を調べた。

未順化タネツケバナの凍結温度は生息地の日最低気温と正の相関があった。ミチタネツケバナの凍結温度とタネツケバナのLT50には有意な集団間差がなかった。ミチタネツケバナのLT50には集団間差があり最低気温と積雪深の交互作用が影響していた。

タネツケバナの集団は凍結温度と生息地の温度に相関があったため、生息地の温度環境に適応していると考えられる。ミチタネツケバナも気象条件に依存した集団間差があったため、生息地の温度環境に適応していると思われる。今後は、異なる適応力をもった集団が日本に侵入したのか、侵入後に適応したのかを遺伝子解析によって明らかにする予定である。さらに、耐凍性以外の温度適応に着目した研究も行う予定である。


日本生態学会