| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-150 (Poster presentation)

ナガゴミムシ属2種(Coleoptera: Carabidae)における過去の繁殖干渉がもたらした一方向性の遺伝子浸透と形質置換

*小須田修平(弘前大・農),笹川幸治(千葉大・教),池田紘士(弘前大・農)

共存する近縁種の間には種間交雑による損失が生じる場合があり、それは繁殖干渉と呼ばれる。繁殖干渉は選択圧として繁殖形質の分化パターンである繁殖的形質置換をもたらす事がいくつかの動物で明らかにされてきた。しかし、複数の繁殖形質への繁殖干渉の影響を比較した研究は十分に行われていない。

本研究では分布境界で混生することが知られるオサムシ科ナガゴミムシ属の近縁2種トウホクナガゴミムシ(Pterostichus habui、以下トウホク)とエゾナガゴミムシ(P. thunbergi、以下エゾ)において、体サイズ、2つの雄交尾器形態(挿入器と非挿入器)、繁殖期の4つの繁殖形質を、混生生息地と2種それぞれの単独生息地で調べた。雄交尾器形態の比較には幾何学的形態測定法を用いた。また、過去の繁殖干渉とその帰結としての遺伝子浸透の有無を調べるため、核遺伝子(28SとWg領域)とミトコンドリア遺伝子(COI)を調べた。

繁殖形質のうち雄交尾器の形態においてエゾの単独生息地と混生生息地の間に種内変異が検出され、挿入器、非挿入器ともに形態の種間差が混生生息地でより大きくなった。核遺伝子の解析結果は形態による種分類と一致し、種ごとのまとまりを形成した。一方、ミトコンドリア遺伝子の解析結果ではそれぞれの種は単系統にならず、混生地のエゾ個体はトウホクのクレード内に含まれトウホクの混生地集団とまとまった。このパターンは混生地においてトウホクのミトコンドリア遺伝子がエゾに浸透していることを示唆している。これらの結果から雄交尾器形態にみられる混生生息地におけるより大きな種間差は過去の繁殖干渉の選択圧による繁殖的形質置換であり、トウホクの生息地に移入した少数のエゾがトウホクよりも強い選択圧を経験したことを示唆している。


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