| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-163 (Poster presentation)

細胞内共生者は増殖を自粛するか

*内海邑, 大槻久, 佐々木顕(総研大・生命共生体進化)

葉緑体やミトコンドリアは細胞内共生者(以下、共生者)として宿主との関係をスタートさせた。共生者からオルガネラへの移行では共生者が宿主細胞内に永続的にとどまるよう、両者の分裂速度が同調するような進化が生じたと考えられる。なぜなら共生者の分裂速度が宿主よりも大きすぎると、宿主は増えすぎた共生者から悪影響を受け共生の成立が困難であると予測されるからだ。一方、共生者の適応の観点からは共生者が分裂速度を宿主のレベルに合わせて下げるのは逆説的に見える。このように、分裂速度の同調は細胞内共生の進化を運命付ける重要な現象であるが、従来の理論研究では注目されてこなかった。

そこで本研究では共生者の共生時分裂速度を共生者自身の進化形質とし、自身の分裂速度を宿主のレベルに合わせるような自粛が起きるかを理論的に調べた。モデルでは以下を仮定した。(1)自由生活状態の両者が出会うと相利共生を始め、共生の利益により両者の死亡率は低下する。(2)共生状態の宿主が分裂すると、持っている共生者を娘細胞に等分配する。(3)一方、宿主細胞内で共生者が分裂すると、共生者が宿主細胞内にたまり、その数が一定数を超えると宿主細胞が死亡する。(4)宿主の死亡時には、ある確率で細胞内共生者も道連れになるが、生き残りは自由生活に戻る。

解析の結果、共生者の分裂自粛が進化するには、共生によって共生者の死亡率が大きく低下するのみならず、宿主の死亡率も十分に低い必要があることが分かった。後者の条件が満たされると、共生者が分裂を自粛することによって長期生存する宿主からの垂直伝播で増えるメリットが生じるからだ。一方、宿主死亡率が大きいとき、共生者は宿主を破裂させて次の宿主に移動できるよう分裂速度を増加させる。共生時の宿主死亡率とは対照的に、宿主の死亡で共生者が道連れになる確率の結果への影響は小さく、全く道連れにならない場合でも自粛が生じた。


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