| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-164 (Poster presentation)

日本列島内で遺伝的に細分化する日本固有科・ガガンボカゲロウ科の分断要因の究明~特殊な生態を中心に~

*竹中將起(信州大学院理工学系研究科),東城幸治(信州大学理学部生物科学学科)

日本固有の科であり, 1属2種だけから構成されるガガンボカゲロウ科Dipteromimidaeは,原始的昆虫類であるカゲロウ類の中でも最原始系統である.このような固有科の存在自体が希少かつユニークな事例であるなど,このグループの進化史を巡っては世界からも注目されている.山岳源流域の極細流に適応していることに加え,分散力も低いことから,本種群の生息地は孤立・散在的となりがちで,集団レベルでの遺伝的固定化や分化が顕著である.日本列島の形成初期段階から,列島の原型となる地盤上に生息していたことが示唆され,本種群における地域集団レベルでの遺伝構造は,地史の影響を強く反映しているとものと考えられる.とくに本邦最大の断層・中央構造線を境に,その南北での遺伝分化は顕著であり,この分化は約2,000万年前にも遡るものであると推察された.さらに,第四紀以降の活発な山岳形成による地殻変動に対しても,地域集団レベルでの分集団化が明らかとなった.このような分集団化により,大きく6つの地域系統群が検出され,系統群間での遺伝的分化は近縁種の種間レベルにも匹敵,もしくはそれ以上の分化に相当した.しかし,系統群間での形態的な差異は認められず,同種として扱われている.生殖的隔離の有無を検証する必要はあるが,2,000万年もの間,種が維持されている可能性もある.これらの事を追究する上でも,本種群における繁殖生態を詳細に把握することは重要である.その一歩として実施した研究において,カゲロウ目においては世界的にも稀な長い交配行動をもつことや,鬱蒼とした源流域内に適応した興味深い配偶行動が明らかとなったので報告する.


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