| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-222 (Poster presentation)

日本産樹木の葉における防御形質と植食性昆虫の成長量の相関関係

*Jason Saihanna,村上正志 千葉大学群集生態学研究室

植物と植食性昆虫の多様性は、多様性全体のおよそ半分を占めているとされる。植物は、数億年にわたる昆虫との相互作用を通じて、様々な昆虫の摂食に対して多様な防衛システムを進化させてきた。植物の防御システムを理解する上で課題となるのは、植食者にとっての植物の葉の有用性(availability)の評価である。植物は多様な方法で被食防御し、一方、ほとんどの植食者は、程度の差はあれ特定の分類群の植物に適応した「スペシャリスト」である。したがって、植物の有用性を一般的に評価することは難しい。

そこで、本研究では、食草選好性を失ない特定の分類群への適応も弱いとされる、エリサン(Samia cynthia ricini)を用いて、植物の有用性を評価する。さらに、この有用性が、植物種間のどのような機能特性、分布域、そして系統関係により説明されるか検討する。樹種ごとの分布域は文献情報から、系統情報はPhylocom データベースから取得した。実験は野外で採取した葉と(生葉)と、葉を常温で乾燥し粉末にし、実験動物用飼料と混合してペースト状にした人工飼料を用いて行った。人工飼料の結果は、葉の硬さ、厚さ等物理的な防御の効果を除外した指標とする。

結果、エリサンの成長量には植物種系統において偏りが見られた(系統シグナル)。落葉広葉樹では、生葉での実験において成長量がサンプリング場所と正の相関を示し、緯度が高くなるほど物理防御が低くなるということを示している。この結果は、低緯度高防御説と一致する。そして、人工飼料を用いた場合、落葉樹では、葉の物理的形質の影響を除外できたが、常緑樹では人工飼料を用いた場合にも成長に葉硬の影響が見られた。これは、葉硬が物理的な形質以外の何らかの形質と相関していることを示唆する。これらの結果から、植物の多様な防御システムの解明を目指す。


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