| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-243 (Poster presentation)

遺伝的多様性の年次変化と密度・分散の関係:変動様式が違うヤチネズミ個体群の比較

*秋元佐紀(北大・環境科学院),山田敏也,齊藤隆(北大・環境科学院)

遺伝的多様性は短期的な時間スケールでは,個体数の変動による遺伝的浮動と移動分散による遺伝子流動によって決まると考えられる。しかし,遺伝的浮動と遺伝子流動に影響する “個体数変動”,“移動分散”の相互作用と遺伝的多様性の関係は未解明のままである。野ねずみ個体群における密度と移動分散を扱った研究では高密度時に移動分散するものと考えられてきた。しかし近年,個体が低密度時に分散する「負の密度依存性分散」を示唆する報告が相次いでいる。遺伝的多様性に関わる個体数変動,移動分散の相互作用の効果を明らかにするため,本研究では,エゾヤチネズミ個体群の周期変動のある根室集団と周期変動のない石狩集団で遺伝的多様性を比較した。5年間の野外調査を行ったところ,2集団の遺伝的多様性は似ており,ともに個体数変動に関わらず高い値で安定していた。遺伝的浮動のみを想定した遺伝的多様性(期待値)をシミュレーションから求めたところ,実測値は期待値よりも大きかった(実測値>期待値)。これは遺伝的多様性に遺伝子流動が影響していることを示した。遺伝子流動の影響は両集団で確認され,根室集団の低密度時では特に大きかった。また,各年における遺伝的空間構造を地理的距離と遺伝的距離の関係から評価した結果,根室集団の低密度時では,個体間の遺伝的距離は地理的距離にかかわらず小さかった。これらの結果は,周期変動のある根室集団で負の密度依存性分散を示している。遺伝的浮動による遺伝的多様性の喪失を補うように働く遺伝子流動の効果によって,個体数変動とは関わりなく遺伝的多様性が安定していることを実証した。


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