| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-250 (Poster presentation)

ミジンコ(Daphnia pulex)隠蔽個体群の維持機構

*八巻健有, 八巻圭佑, 大槻朝, 牧野渡, 占部城太郎(東北大院・生命)

ミジンコ Daphnia pulex は全国の池沼に広く分布する動物プランクトンである。私たちの調査によると、本邦に生息するD. pulexは全て絶対単為生殖型であり、通常の繁殖だけでなく、不適な環境を乗り越えるための休眠卵生産も単為生殖によって行う。したがって、絶対単為生殖型D. pulexには個体間での遺伝子交流が存在せず、各々の遺伝的系統は単一遺伝子型からなるクローナル個体群を形成する。

日本には遺伝的に異なる4系統のD. pulex集団が生息しており、これらが生息している本邦の池沼では、多くの場合、1つのクローナル個体群が分布している。しかし、遺伝的に異なる複数のクローナル個体群が分布し、隠蔽個体群となっている池沼もまれではない。一般に多くの動物プランクトン種は藻類を共通の餌資源としているため強い消費型競争に晒されており、餌や生活要求がほぼ同じであるクローナル個体群間では特に競争は激しいと考えられる。それにも関わらず、なぜ同じ池沼に異なる複数のクローナル個体群が生息出来るのだろうか。

本研究ではその理由を明らかにするため、2つのD. pulexクローナル個体群が分布している山形県の畑谷大沼において、各個体群の時空間動態を調べた。また、両者の競争能力や環境応答の違いを調べるための野外および室内での実験も行った。その結果、競争能力だけでなく生殖に関する環境応答の違いが2つのクローナル個体群の共存を可能にしていることが示唆された。これら結果を踏まえ、同所的に生息している隠蔽的なクローナル個体群の維持機構について議論を深めたい。


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