| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-255 (Poster presentation)

ミズクラゲのストロビレーションのチオウレアによる阻害機構

*山守瑠奈(京都大・農),前川真吾(京都大・情報), 豊原治彦(京都大・農)

刺胞動物はその生活環の中で無性世代のポリプから有性世代のクラゲへと変態を行う。この変態はストロビレーションと呼ばれ、誘発経路については現在二つの経路が想定されている。一つはカエルやヒラメの変態ホルモンとして知られるヨウ素チロシン化合物による経路であり、もう一つはインドール化合物による経路である。インドール化合物の経路については分子生物学的に詳細な研究がなされており、ストロビレーションを誘発するインドールペプチドをコードする遺伝子が特定されている。一方、ヨウ素チロシン化合物の誘発経路については1960年代から化学物質投与実験を主軸として様々な研究がなされてきたが、近年有力な追試は成されていない。

本実験では、ミズクラゲを用いて化学物質投与実験の影響を分子生物学的に評価することで、旧来ヨウ素チロシン化合物の経路を支持してきた知見が、実際にはインドール化合物の経路を支持することを示した。

はじめに追試の結果、ヨウ素チロシン化合物の合成阻害剤として知られるチオウレアによってストロビレーションが阻害されることが確認された。

また、チオウレア投与によって阻害されたストロビレーションは、インドール化合物の投与によって進行した。この結果から、チオウレアはインドール化合物の合成経路を阻害することが示唆された。

そこで次に、チオウレアがインドールペプチドの発現に及ぼす影響を、RT-PCRおよび定量PCR法を用いて調べた。その結果、チオウレアがインドールペプチドの発現を抑制したことから、チオウレアはインドールペプチドの合成経路を阻害することが示された。

以上のことから、旧来ヨウ素チロシン化合物の合成を阻害していたと考えられていたチオウレアは、実際にはインドールペプチドの発現を抑制していることが明らかとなった。


日本生態学会