| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-279 (Poster presentation)

網室内での社会性ネットワークは繁殖を説明できるか?:トキの場合

*越田智恵子(筑波大・生命環境),益子美由希(農環研),徳永幸彦(筑波大・生命環境)

新潟県佐渡島では、2008年からトキの再導入事業が行われている。野外に放鳥されたトキの繁殖成績はつがい間で大きくばらつくことが観察されている。この偏りの原因を様々な視点から検討することは、今後の再導入事業を進める上で有益な示唆を与えてくれると考えられる。放鳥前のトキは、集団内で頻繁に個体間での社会行動を行うが、その頻度に個体差があることがわかっている。そこで、トキの野外での繁殖成績が、放鳥前の集団内での他個体との関わり合いから説明できるか検討した。

放鳥前の個体を大型ケージ内で数ヶ月にわたり集団生活させる間(2007~2013年の計7回;計125個体)、個体間の社会行動(擬交尾、羽繕い、嘴合わせ、枝渡し、つつき)を記録し、各個体の他個体との関わり合い方を、ネットワーク解析で用いられる「中心性」という数値で表した。また、放鳥個体を追跡し、野外での巣立ち数など繁殖成績に関わる7項目を測定し、主成分分析で1つの指標にまとめた。解析では、ケージ内で観察された各行動の相対的重要度が不明なため、遺伝的アルゴリズムの手法を用い個体の中心性と繁殖成績の相関を最も高くする行動の重みづけを探索した。

その結果、いくつかの放鳥回を除き、中心性と繁殖成績の間で高い相関を見つけることができた。これは、繁殖に成功した個体は、ケージ内で多くの他個体と友好的な社会行動を行っていたことを意味する。ただし、放鳥回によって採用された中心性の指標の種類は異なっていた。また、どの放鳥回でも友好的な意味をもつ行動が大きく重みづけされたものの、その行動の種類は放鳥回によって異なっていた。他個体との友好的な社会行動が突出して多い個体の繁殖成績が高い、という今回の発見は、野外におけるトキの繁殖を理解する上でのヒントになるかもしれない。


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