| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-298 (Poster presentation)

マングローブ林において底生生物の巣穴崩壊・新生を促す環境要因

*江川遼平(東工大・情報理工),Sharma,S.(ハワイ大),安岡潤(川崎重工),田野倉佑介,Ratino,S.,灘岡和夫(東工大・情報理工)

マングローブ林は熱帯・亜熱帯沿岸の重要な生態系であり、ブルーカーボンの貯蔵量とその吸収効率の高さから注目を浴びている。その貯蔵量の50%以上が土壌中にあるため、土壌深部への炭素蓄積過程の理解が重要となる。マングローブに棲むカニは巣穴を掘ることによって深部の土壌を地表に運び出し、また堆積物内に酸素を送ることで、土壌有機炭素の分布に影響を与えていると考えられる。本研究では、数値シミュレーションによる炭素蓄積過程へのカニの土壌掘り返し効果の評価及び、土壌を掘り返す頻度とも言える巣穴新生・崩壊頻度を決める環境要因の分析を行った。

2014年8月、11月、2015年2月、6月に、沖縄県石垣島の吹通マングローブ林の12箇所の観測地点で、50cm×50cmのコドラードを用いてシオマネキ7種とイワガニ5種の巣穴挙動をモニタリングした。巣穴密度、新生・崩壊頻度、深さ、入り口直径を調べ、単位時間あたりに掘り返される土壌の量を推定した。また、各地点で土壌やマングローブの植性に関する環境要因の測定を行った。シミュレーションには土壌に有機物が堆積する過程を表現するSOMPROFモデルと観測データを用い、環境条件と巣穴崩壊頻度の関係の分析には単相関分析を用いた。

シミュレーションの結果、有機物含有量の少ない深部の土壌が掘り返され、土壌表層部の有機物含有量の多い土が穴を埋めることで、最大巣穴深度まで有機物の蓄積を促進する効果が示された。また、巣穴の新生と崩壊頻度はほぼ同程度であること、根のバイオマスは巣穴の崩壊頻度と最も相関が強い(r =-0.738, p < 0.01)ことが分かった。このことから、密に張り巡らされたマングローブの根が巣穴の構造を強固にし、壊れにくくしていると考えられる。


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