| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-316 (Poster presentation)

伝統的管理の実験的導入による里草地再生

*長井 拓馬, 丑丸 敦史(神戸大院 人間発達環境), 内田 圭(東京大 総合文化 )

半自然生態系には高い生物多様性が存在している。水田畦畔や林縁部に成立する草地(=里草地)もその一つであり、希少な動植物の生息地であることが明らかになってきた。しかし近年、里草地において水田の耕作放棄に伴い植物多様性が減少している。農地の生物多様性を維持するために里草地の再生は重要であるが、その有効性を検証したものは少ない。本研究は放棄された里草地において、時期と頻度を変えた4つの草刈管理を実験的に導入した。周囲の営農が継続している畦畔(伝統地)と比較することで、①植物多様性の再生に適切な草刈管理は何か、②それ以外に影響する周辺環境は何か、を明らかにすることを目的とした。

実験は合計25本の放棄畦畔において実施した。それぞれの畦畔に放棄継続(コントロール)、6月刈り、8月刈り、6月と8月の2回刈りを導入した。植生調査は2回/年、6月と10月に実施し、開花植物を1回/月調査した。各畦畔の環境要因として、草刈り導入前に優占している植物種、植生高、植物残渣量、土壌水分、土壌pHを調査した。

実験の結果、種数は有意に増加するが時期や頻度による差は確認されなかった。管理により大きく増加したのは1年性草本であり、多年生草本の再生は2年間では不十分であると考えられた。管理再開前の植生により管理後の再生過程は異なった。ススキが優占していた場所では8月刈り、ネザサが優占していた場所では6月に管理を実施することが重要であった。これは多年草・開花植物の再生でも同様の結果であった。植生高と植物残渣量は管理によって減少することが明らかとなり、それらの減少により植物多様性の再生が促進されると考えられた。さらに、季節毎の開花植物種数は管理間で異なり、秋咲き植物の再生には6月刈りが適切であることが示唆された。


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