| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-344 (Poster presentation)

林床移植技術は開発により失われる自然生態系の保全に有効か

*植竹倫子(北大・環境科学院), 矢原徹一(九州大・理)

森林を土壌ごと移植する林床移植が森林の植物種多様性の保全に有効であるかを検証し、また、より効果的な移植条件を明らかにするため、九州大学伊都キャンパス林床移植地において2001年の移植後13年間での維管束植物種数と種構成の変化、樹木の芽生え・成長について調査した。

移植後13年間で非樹木種数は183種から80種に減少したが、3m以上の樹木種数は2005年から9年間で17種から35種に増加した。構成をみると、森林性草本は残存傾向にあり、 優占樹種は先駆性落葉樹から常緑樹へと変化した。 また、当該地域の代表植生を示す残置林との比較から、移植林では移植直後には草本の種多様性が非常に高かったが、現在では残置林と同等のレベルにまで低くなっていること 、小面積では移植林の種多様性が高いことが示された。 また、移植された林床ブロック単位でみると、樹木のない状態で切り出し・移植が行われたブロックでは13年間に記録された樹木種の芽生えの数、実生定着率がそれぞれ2.8個体、29.5%だったのに対し、幼木の生育している状態で移植されたブロックでは5.3個体、53.1% と発芽・定着ともに多く、ブロック内最大樹高も2005年からの9年間で平均2.1mから4.7mと成長がみられた。加えて、幼木の生育していたブロックでは移植直後、13年後ともに移植地に出現する種の90%以上が生育していた。

これらの結果は、移植林に起きた変化が、林床の明るい幼齢段階から高木性の樹種の優占する若齢段階への変化であること、本移植地では様々な場所から切り出した林床ブロックがランダムに配置されたことにより小面積での種多様性保全効果が高いこと、また幼木が生育している林床ブロックを利用することでより高い保全効果が得られることを示唆している。


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