| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-372 (Poster presentation)

ヒグマ(Ursus arctos)の農作物利用における規定要因の解明 ~生息地環境と個体情報に着目して~

*崎山智樹(北大農), 森本淳子(北大院・農), 松林順(地球研), 古川泰人(北大院・農), 近藤麻実(道総研), 釣賀一二三(道総研), 間野勉(道総研)

北海道ではヒグマによる農業被害が増加しており、その軽減のためには被害発生のメカニズムを解明する必要がある。農作物利用はヒグマの利用環境や生態的な違いに起因する可能性があるため、本研究では捕獲地点周辺の環境と各個体の特徴に着目して、ヒグマによる農作物利用の規定要因を明らかにした。

農作物利用の指標として、過去に北海道渡島半島地域で捕獲された132個体を対象に、大腿骨の安定同位体比食性分析を行い、各個体の一生分の食性に占めるデントコーンの利用割合、を推定して用いた。コーン利用を説明する環境要因として、GISを用いて算出した捕獲地点周辺の人口、及び森林とコーン農地の接しているエッジ長を、個体要因として、各個体の年齢、及び体サイズの指標となる大腿骨長を用いた。目的変数を各個体のコーン利用割合として、一般化線形モデル(GLM)を用いて、雌雄別に解析した。

コーン利用割合は、メスにおいて7.8±0.6%(中央値±SE)、オスにおいて5.5±1.2%だった。解析の結果、農作物利用にはメスにおいてどの要因も影響しないこと、オスにおいて大腿骨長、及び森林とコーン農地の接しているエッジ長が正に影響し、人口が負に影響することがわかった。これらのことから、多くの農作物を利用しているオス個体は、社会的に優位な体サイズの大きい個体であること、人間の生活域を回避していること、及び森林に隣接したコーン農地に出没していることが示唆された。ヒグマの社会において農作物が重要な食物資源になっている可能性があることから、農地の見回り頻度の増加、森林と農地の接線部の電気柵の設置、植生の刈り払いが農業被害の軽減に対して有効になると考えられる。


日本生態学会