| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-434 (Poster presentation)

森林集水域からの窒素流出要因の検討―安定同位体比など渓流水水質を用いて―

*松浦真奈(京大・農),木庭啓介(農工大),矢野翠(農工大),徳地直子(京大・フィールド研)

森林は本来窒素制限状態にあり、渓流水中に多量の窒素が流出することはない。しかし近年では森林における窒素飽和が報告されており、窒素負荷量の増大がその主な要因とされている。

本研究では、森林生態系からの窒素流出の要因を解明することを目的とし、人為影響のない渓流において採水調査を行った。主な調査地は近畿地方と埼玉県秩父で、渓流水の各種イオン濃度、NO3-の安定同位体比(δ18O、Δ17O)、TOC濃度、TP濃度などを分析した。

Δ17Oはδ17O-0.52×δ18Oで表され、土壌硝化由来のNO3-のΔ17Oは0、大気由来NO3-のΔ17Oは正の値になるため、渓流水中NO3-のΔ17Oが正になる場合は大気由来NO3-の混合が考えられる。Δ17Oの値は脱窒や植物の同化などによる同位体分別の影響を受けないので、Δ17Oから、渓流水中NO3-における大気由来NO3-の寄与(以下、大気NO3-)を推定することができる。

秩父では、首都圏からの窒素負荷量を大中小の三段階に分けることができ(Tabayashi and Koba. 2011)、中と大の地域は窒素飽和状態にあると考えられる。秩父における渓流水中NO3-のΔ17O値は窒素負荷小の地域で低く、大の地域では高く、中の地域でばらつきがみられた。これより、大気NO3-は窒素飽和状態でない森林では小さく、そこから窒素飽和に近づくとばらつき、窒素飽和状態になると大きくなることが示唆された。一方近畿地方では、窒素負荷・渓流水中NO3-濃度はともに大きくないが高いΔ17O値を示す地点があり、これらの地点では総じて集水域面積が小さかった。以上のことから、渓流水への大気由来NO3-の流出については、窒素負荷量に加えて、集水域面積の影響も検討する必要が示唆された。


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