| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-017 (Poster presentation)

稚樹萌芽力の種間差が熱帯雨林の群集動態に及ぼす影響

*伊東明, 堀田弘時, 名波哲 (大阪市大・院理), S Davies, S Tan (CTFS), M Mohizah (Forest Department Sarawak)

萌芽(sprouting)は、樹木の重要な形質(trait)のひとつである。一般に、萌芽力は、火災や台風など強度の撹乱に対応するための戦略と考えられており、強度の撹乱にさらされる森林には萌芽力の強い種が多く生育している。一方で、強い撹乱が起きない熱帯雨林での萌芽の意義は、必ずしも良くわかっていない。そこで、ボルネオ島ランビル国立公園の大面積長期動態調査区のデータを用いて、様々な樹種の萌芽力と動態特性、および、系統との関係を解析した。1)直径3㎝未満では、ほぼ全ての種で幹に損傷を持つ個体が多いこと、2)119種の稚樹の幹切断実験で、97%の種に萌芽が発生したこと、から萌芽は稚樹段階で普遍的に起きる現象であることが示唆された。各樹種の萌芽力を萌芽力指数で評価した:萌芽力指数=n2/(n1+n2)、ただし、n1は1997年には主幹に損傷が見られず、2007年までに死亡した個体の数、n2は1997年には主幹に損傷が見られず、その後幹に損傷を受けたが萌芽を出して2007年まで生きていた個体の数。重回帰分析で、最大直径が小さく、直径成長が遅く、死亡率が高い種ほど萌芽力指数が大きいことが示された。また、萌芽力指数には有意な系統シグナルがあり、分類群によって萌芽力が異なることが示唆された。更に、萌芽力指数が大きい種は、傾斜のゆるい安定した斜面に多く分布し、萌芽力指数が小さい種は急斜面やギャップ周辺に多く分布する傾向がみられた。これらの結果は、安定した地形をハビタットとする低木種で萌芽力が特に強いことを示唆する。ボルネオ熱帯雨林における稚樹の萌芽は、ギャップ等の撹乱への対応ではなく、安定した林内で起きる落枝等による幹の障害に対応するための稚樹の戦略と考えるべきだろう。


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