| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-018 (Poster presentation)

南アルプスのシカ食害エリアにおけるマルバダケブキの管理と植生回復効果

*渡邉修,竹田謙一,三尾建斗,渋谷美月(信大農)

南アルプスの仙丈ケ岳(標高3,033m)周辺では,1990年代末からニホンジカが出現し,シカの増加にともない貴重な高山植生のほとんどが食害され,南アルプスに広く分布するミドリユキザサーダケカンバ群団とシナノキンバイ−ミヤマキンポウゲ群団で植生が衰退している。仙丈ヶ岳の馬ノ背(標高2,640m)では,かつてシナノキンバイ,ミヤマシシウド,クロユリが咲く「お花畑」として多くの登山者に親しまれてきたが,シカによる食害で高山植生が衰退し,現在マルバダケブキが優占する単純な植生が広がっている。

被害エリアの植生回復を進めるため,南アルプス食害対策協議会が設立され,2008年に仙丈ケ岳馬ノ背周辺に防鹿柵を設置した。柵設置後,植被率の回復は早く進み,種数はコドラートあたり12から21種確認されたが,柵設置後数年が経過しても種数の増加はほとんど見らなかった。これは柵内で優占するマルバダケブキの存在量が多く,他の草種の回復を妨げていることが原因と考えられる。

2012年から2015年にかけて馬の背調査地において実験的にマルバダケブキを除去する試験区を設定し,毎年マルバダケブキのみを除去する操作を加えた結果,LAIは対象区の1/3に低下し,30cmを超える層のLAは大幅に減少した。調査地では,ミヤマシシウド,ミヤマアキノキリンソウ,シラネセンキュウ,シナノキンバイの発生量が増加したが,特にイネ科のヒゲノガリヤスが除去区および対象区で増加した。調査地周辺のダケカンバ林床にはノガリヤス類の群落が特に目立っており,今後ノガリヤス類主体の植生にシフトする可能性が示唆された。調査地周辺では柵設置後7年でミヤマシシウドの開花が見られ,一度食害を受けた個体が回復するには長い時間が必要であると考えられた。


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