| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-047 (Poster presentation)

アキノキリンソウ土壌エコタイプにおける環境適応と生殖隔離

*阪口翔太(京大院・人環), 堀江健二(旭川市北邦野草園), 石川直子(東大院・総合文化), 永野惇(龍谷大・農,JSTさきがけ,京大・生態研),本庄三恵(京大・生態研), 工藤洋(京大・生態研), 伊藤元己(東大院・総合文化)

北海道に点在する蛇紋岩地帯には,キク科草本であるアキノキリンソウが分布している.蛇紋岩地で見られる集団は,小型の葉を持つなど乾燥適応的な形態分化が見られ,また秋ではなく初夏に開花するという特性を持っている.本研究では,このアキノキリンソウの土壌エコタイプにおける環境適応と生殖隔離の程度を明らかにすることで,蛇紋岩地での生態的種分化過程について検証を行った.林床と蛇紋岩地の間で相互移植実験を行った結果,由来土壌における成長速度が他方由来の個体を圧倒し,土壌エコタイプ間で局所適応が存在することが示された.自生地の環境モニタリングから,蛇紋岩地では6月下旬以降に日最高気温が林床を大きく上回って40度を超える日が続いた.一方,林床では夏季を通じて30度を超えることはなかった.このことから,蛇紋岩地での早期開花性は,花茎伸長期における乾燥を回避する上で有利に働く可能性が考えられた.集団遺伝解析の結果,蛇紋岩集団と林床集団は系統的なまとまりを形成しておらず,蛇紋岩型の一部が通常型の遺伝的変異の範囲から遺伝的分化を遂げていた.そうした集団が集中する上川地方中部では,開花期の時間的ずれと遺伝的分化に相関がみとめられた.これらのことから,複数の系統で蛇紋岩地帯への適応と侵入が起こったのち,蛇紋岩地の高温乾燥条件によって選択された早期開花性が生殖前隔離に結びつき,近接して生育するエコタイプ間での遺伝的分化を促進したと考えられた.


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