| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-084 (Poster presentation)

ハワイフトモモにおける葉トライコームの適応的意義―熱収支に注目して―

*甘田岳,小野田雄介,北山兼弘(京大・農・森林生態)

ハワイフトモモはハワイ島の優占樹種であり、大きな環境傾度に沿って、非常に多様な葉形質を示す。特に葉トライコーム(葉毛)の変異は極めて顕著であり、乾燥した高標高ほど葉トライコームは多くなるが、その適応的意義はよくわかっていない。葉の光合成は葉温に強く依存するが、葉トライコームは葉面境界層を厚くすることで熱拡散抵抗(顕熱抵抗)として働き、葉温に影響することが考えられる。また、葉面境界層の厚さは風速と葉幅にも依存し、風が強く葉面積が小さいほど薄くなり、葉温は大きく日変化する外気温の影響を受けやすくなる。ハワイフトモモの葉面積は葉トライコーム量と負の相関がみられることから、本種の葉トライコームの意義の可能性の一つとして、小さい葉面積に起因する薄い葉面境界層を補うことで、葉温保持を行う効果を考えた。本研究では、ハワイ島マウナ・ロア山麓の環境の異なる5標高の集団(100m、700m、1200m、1800m、2400m)から採集した葉の形質と、熱収支式から作成した葉温モデルを用いて、葉トライコームの葉温への影響を推定した。標高間で同一の環境を仮定した場合、顕熱抵抗は葉面積の減少ともに大きく低下する一方、葉トライコームによっては増加した。その結果、葉トライコームによって、葉面積の小さい葉でも葉面積の大きい無毛の葉に匹敵する葉温維持があることがわかった。各標高の現地の環境を仮定すると、風速の違いを大きく反映して風の強い高標高ほど顕熱抵抗は小さくなったが、葉トライコームの抵抗が25%程度補った。この効果により、気温10℃程度の高標高において葉トライコームにより最大1.5℃の葉温保持効果が推定された。以上の結果から、ハワイフトモモの葉トライコームは顕熱抵抗として働き、環境に応じた葉面積変異による葉面境界層を補うことで、葉温維持としての機能を果たしている可能性が示唆された。


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