| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-089 (Poster presentation)

樹木600種を対象とした死環反応特性の評価: 系統的保守性はどの程度存在するか?

*大谷雅人(兵庫県大・自然研/兵庫県博),佐伯いく代(筑波大・人間総合科学),指村奈穂子(琉球大・理),澤田佳宏(兵庫県大・緑環境/淡路景観),古本良(森林総研・林育セ),横川昌史(大阪自然史博)

死環は植物の葉に熱刺激を加えた際に加熱部分周辺に黒い環が生じる現象であり,種によってその濃さや幅,発現に要する時間等が異なることから,特に樹木においては,簡易的な種識別のための指標としての有効性が指摘されている.本研究では,多様な系統群の樹種について統一的な条件の下で死環反応特性を記録し,系統的保守性の程度を評価することを目的とした。

日本・台湾の46地点に生育していた樹木626種6亜種15変種を試験対象とした。線香を用いて任意の3枚以上の葉に熱刺激を加え,15秒経過時,5~15分経過時,さらに可能であれば8~12時間経過時における変色部分の濃さおよび幅を4段階の指数で記録した。常緑・落葉の別や系統群の違いによる死環反応特性の差異を検討するため,5種以上について記録が得られた科を対象として,5~15分経過時の死環の明瞭性を目的変数,常緑・落葉の別を説明変数,APG3分類体系の科または目をランダム効果とする一般化線形混合モデルを構築した。

常緑・落葉の別は死環反応特性に対して有意な効果をもたなかった。一方,死環反応特性は科や目ごとに異なる傾向を示した。モクレン科,バラ科,真正キク類Ⅰの大部分および真正キク類Ⅱの全ての科では死環が明瞭な種の比率が有意に高かったのに対し,ブナ科,ムクロジ科,ハイノキ科等では有意に低かった。異なる季節・複数地点での記録が得られた樹種では,死環反応特性の傾向は概ね安定していた。以上の知見より,樹木の死環反応特性には系統的保守性が存在し,系統群の識別に役立ちうることが改めて示唆された。


日本生態学会