| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-120 (Poster presentation)

ありふれた雑草ホトケノザの送粉者はありふれていない

*高倉耕一,遠藤耕平(滋賀県大・環境)

ホトケノザはきわめて普通なシソ科の在来雑草である。本種は通常の開放花のほかに、花筒が開かずに自家受粉で種子形成を行う閉鎖花を付けることが知られている。この閉鎖花は近縁外来種ヒメオドリコソウが生育する環境で多くなることが報告されており、閉鎖花は近縁種からの種間送粉を防ぐための機能も持っていることが示唆されていた。また、開放花はヒトの舌でも甘さを感じられるほどの花蜜を生産しており、かつてはポリネーターが頻繁に送粉していたことがうかがわれる。しかし、その送粉昆虫相については断片的な知見があるのみであった。

本研究では、複数の調査地においてホトケノザに訪花する昆虫相を調べ、本種開放花の送粉、さらにはヒメオドリコソウとの種間送粉を担っているポリネーターを特定することを目的とした。調査は、滋賀県から福岡県までの5つの調査地で行った。これらのうち香川県三豊市粟島でのみ頻繁な訪花が観察され、ポリネーターは全てケブカハナバチであった。ケブカハナバチの口吻は10 mm以上と長く、ホトケノザの長い花筒から花蜜を摂食することができていた。

ケブカハナバチは粘土質の崖などに営巣する種である。かつては古くなって崩れかかった土壁や土塀などに営巣していたとされる。粟島の調査地では、集落内に古い土塀が残されており、多くのケブカハナバチが営巣しているのが観察された。

以上の結果から、ホトケノザの主要なポリネーターはケブカハナバチであったものの、土壁や土塀が少なくなったことからケブカハナバチが減少し、多くの集団でポリネーター不足になっていることが示唆された。ホトケノザでは開放花を多く付けている集団でも自家受粉率が高いことが既に知られており、ポリネーター不足はこのことも説明すると考えられる。


日本生態学会