| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-127 (Poster presentation)

沈水植物ヤクシマカワゴロモの分布維持機構:種子散布者は存在するか?

*黒江美紗子(長野県環境保全研究所),廣田峻(九大・決断センター),布施健吾(九大・決断センター),古市生(水研センター・西海区水研)

ヤクシマカワゴロモHydrobryum puncticulatumは、屋久島のなかでも一湊川のみに生育する絶滅危惧植物であり、国の天然記念物に指定されている。茎と葉が退化し、根がコケ状に変形した葉状体で岩に固着し光合成を行う沈水植物であるが、多くの陸上植物と同様に種子を散布するという繁殖様式を持つ。季節を通して水量が豊富な急流河川に生育しているため、光合成だけでなく開花・受粉・結実・種子散布などが全て水中で行われている。種子は、蒴果としてまとまった状態で水中に散布されるが、表面にとげや鉤爪のような構造も持たないため、そのままでは勢いよく下流あるいは海へ流されてしまう。一湊川でカワゴロモの生育が維持されるには、種子あるいは蒴果が岩に固定され発芽する過程が必要である。しかし、本種の種子あるいは蒴果が散布・定着する仕組みについては、これまで全く研究されておらず、どのように分布が維持されているか未だに解明されていない。そこで、本種の分布維持に水流以外の要因が影響しているかどうかを明らかにする。

カワゴロモがまとまって生育する3地点で、種子散布期と定着期に詳細な分布パターンを記録した。散布期の後、氾濫による生育パッチ(岩)の消失がみられたにも関わらず、定着期にはパッチ占有率が回復していた。定着期に新しく確認された占有パッチを対象に、カワゴロモの移入に関わる空間スケールを推定したところ、対象パッチより上流のカワゴロモだけでなく、下流に位置しているカワゴロモも移入に影響していることが示された。このことから、水流とは異なる方向にも種子が散布されている可能性が示唆された。


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