| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-179 (Poster presentation)

シカ被害地に設置した1ha柵における植栽8年後の樹木の定着と成長

川嶋 淳史・*永松 大(鳥取大・地域環境)

近年の二ホンジカの急増により,各地で森林更新に影響を来している。シカへの対策として,各地に植生保護柵(以下,シカ柵)が設置されており,実際に植生回復に効果があることが報告されている。しかし,シカ柵設置時期による再生種への影響,柵内の再生種と周辺の植生との違いなども指摘されている。そこで本研究では,1.04 haの大規模シカ柵において大規模シカ柵の効果を検証するとともに再生林とシカ柵外の樹種を比較した。調査地は兵庫県朝来市笠杉峠で,スギ人工林の伐採跡地にシカ柵が設置された。シカ柵内は林道工事残土を敷きつめた鉱物質土壌と伐採したのみの森林土壌に分けられた。2006年春,シカ柵設置時にコナラ,ミズナラ,クリ,ミズメ,ホオノキ,ネムノキの6種が植栽された。8年経過後の2014年に現地調査を行った。シカ柵内では植栽種6種に加えて44種が定着し,アセビを除く43種がシカの採食種であった。ニガイチゴやクサギ,タニウツギなどシカ柵外にみられなかった種が25種を占め,柵外で生育できない多くの種がシカ柵内に定着していた。植栽されたコナラ,ミズナラ,クリ,ミズメ,ホオノキは鉱物質土壌部分で多少成長が悪かったものの,おおむね順調に成長していた。ネムノキはシカの採食による個体数減少や成長阻害がみられた。大規模シカ柵ではシカの侵入は完全には防げなかったが,その程度は軽微で,シカ柵の効果は十分であったといえる。シカ柵周辺に母樹がある侵入種は柵内での個体数が多く,シカ柵内の再生は柵内に種子を供給できる機会が重要であることが示唆された。8年間のうちに柵外から定着できなかったコナラ,ミズナラ等の重力散布型種をあらかじめ植栽したことにより,自然状態に近い林分の早期再生につながる可能性が認められた。


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