| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-256 (Poster presentation)

環境DNA解析用ユニバーサルプライマー’MiFish’を用いた広域河川魚類相調査

*中川光 (広島大), 源利文 (神戸大), 山本哲史 (神戸大), 佐藤行人 (東北大), 宮正樹 (千葉中央博)

魚体から環境中に放出されるDNA断片から生息種を特定する環境DNA(eDNA)技術が注目を集めている。近年、魚類について多種のDNA配列を非特異的に増幅するユニバーサルプライマー(MiFish)と次世代シーケンサを用いたDNAメタバーコーディング技術を組み合わせる事で、環境水サンプルからほぼ全ての種が特定できる手法が開発された。本研究では、この新技術を用いた河川魚類の広域かつ網羅的な種組成調査の試みについて紹介する。日本で最も河川魚類の種多様性が高く、その分布情報が充実している地域の一つである琵琶湖周辺の河川中上流域において、2014年8月から10月にかけて、琵琶湖に流入する34河川、それらに隣接する10水系の計103地点において水サンプルを採集し、河川水に含まれる遺伝子断片 (12S rRNA) から生息魚種の推定を行った。その結果、全体としては、文献情報からサンプリング地点で生息が予想された河川魚類51分類群のうち、42分類群のDNA配列を検出する事が出来た。また、文献情報の存在した66地点それぞれにおける各魚種の検出傾向は、eDNAと文献情報がよく一致するもの(11種)、文献情報に比べeDNAによる検出が少ないもの(18種)、多いもの(4種)およびeDNA、文献ともに分布情報が少ないもの(19種)が見られ、それらの傾向には各魚種の生態や文献情報の中で用いられた採集方法によるバイアスが関与していると考えられた。これらの結果は、1人の採集者による合計10日の調査努力に基づいて得られたものであり、これまで多大な労力を要するため難しかった分類群網羅的な継続モニタリングや国内外来種の侵入状況といった速報性の要求される情報の収集においてこの手法の有効性を示唆するものである。


日本生態学会