| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-261 (Poster presentation)

2011年大津波後の内湾における底生多毛類群集の回復過程

*阿部博和(水研セ東北水研), 小林元樹(東大院新領域), 大越和加(東北大院農)

津波予測の困難さに起因して、津波が沿岸生態系に与える影響には不明な点が多い。本研究は、宮城県女川湾の底生多毛類群集が東北地方太平洋沖地震に伴う巨大津波により受けたインパクトと大規模攪乱に対する応答を明らかにするため、津波前後の期間を通して底生多毛類群集(成体)と多毛類浮遊幼生の動態を追跡した。

底生群集調査は2007年7月から2013年12月まで、浮遊幼生調査は2007年1月から2012年12月まで、女川湾の湾奥部に設定した水深20 mの定点において月一回の頻度で行った。底生多毛類は採泥器を用いて採取した底泥を1 mm目合の篩で振るうことで採集し、多毛類浮遊幼生は目合 0.1 mmのNORPACネットを用いた海底からの鉛直曳きによって採集した。

津波前はミズヒキゴカイ科とモロテゴカイ科が優占する群集構造が続き、底生多毛類の個体数密度は 340~2,180 ind m−2であったが、津波直後の生息密度は100 ind m−2まで激減した。一方、浮遊幼生の群集組成には大きな変化は見られなかった。津波後は、津波流出物による人為起源の底質汚染が見られ、2013年5月まで不安定な群集構造が続いた。その期間は、日和見的な生活史を示すスピオ科やイトゴカイ科の多毛類が優占して出現した。スピオ科やイトゴカイ科の幼生は津波後に卓越して出現し、直達発生型の種群は津波後の回復が遅れる傾向が見られたことから、津波後の初期加入は浮遊幼生の供給が重要であることが示唆された。2013年6月からはタケフシゴカイ科が優占する津波前とは異なる群集構造に変化し、底質汚染の軽減や津波後の粒度組成の変化がその要因となったと考えられた。


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