| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-319 (Poster presentation)

日本周辺におけるウトウの越冬海域:日本海側・太平洋側繁殖地の比較

*高橋晃周(極地研),JB Thiebot(極地研),綿貫豊(北大水産)

海鳥類は一般に長寿命であり、親の生存率の変化が個体群動態に大きく影響する。親の生存率は海の生産性が高い夏の繁殖期間中よりも、冬の非繁殖期間中に低下するのが一般的である。したがって、海鳥がどこで越冬し、どのような環境を経験しているかを知ることは、個体群動態を理解し、また保全策を考える上で重要である。

海鳥類は、繁殖終了後は陸に戻らないため足環等の回収が難しく、渡り行動や越冬海域を調べることは難しかった。しかし近年、照度を計測して位置を推測するジオロケータ技術が発展し、繁殖終了後の個体の移動を詳細に追跡することが可能となった。

著者らは、ウミスズメ科ウトウを対象に、世界最大の繁殖地である北海道天売島において、ジオロケータを用いて個体の移動を追跡してきた。本発表では、日本海側の天売島に加え、北海道東部太平洋側の大黒島でも調査を実施して、ウトウの渡り行動・越冬海域を地域間で比較した結果を報告する。

2014-2015年に実施した調査の結果によれば、天売島、大黒島のいずれのウトウも繁殖が7月に終わったのち、8-10月の間に一旦北上してオホーツク海周辺海域を利用していた。その後ウトウは11-12月に日本海を南下し、朝鮮半島の南東部に到達してこの海域に滞在した。2-3月に再び日本海を北上し、それぞれ天売島、大黒島の繁殖地に3-5月に戻った。

これらの結果は、日本海と太平洋という地理的に大きく異なった繁殖地に生息するウトウが同じような渡り行動、越冬海域を持つことを示している。またいずれの繁殖地のウトウも朝鮮半島の南東部海域を集中的に利用しており、この海域の環境変化が日本の複数の繁殖地でのウトウの個体群動態にとって重要であることが示唆された。


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