| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-462 (Poster presentation)

立木密度の異なるスギ人工林における窒素利用様式の変動

*稲垣善之(森林総研四国),野口享太郎, 平井敬三,金子真司(森林総研)

樹木は、落葉前に窒素を引き戻すことや、葉の寿命を長くすることによって、樹冠における窒素滞留時間を長くする。しかし、窒素滞留時間の種内変動に関する情報は乏しい。間伐してから7-10年経過した茨城県北部のスギ人工林において窒素利用様式を明らかにした。2002年に37年生のスギ人工林流域内に15m×15mの調査区を6地点設置し、3地点を間伐区、残りの3地点は無間伐とした。2012年に測定した生枝下高、樹高、胸高直径を用いて、アロメトリー式から樹冠葉量を推定した。2009年から2012年までの4年間にわたってリタートラップの落葉量を葉生産量とした。樹冠葉量を落葉量で割って葉寿命を算出した。また、樹冠葉量、落葉量に窒素濃度をかけて、樹冠窒素量と落葉窒素量とし、窒素滞留時間を算出した。樹冠葉量、落葉量、葉寿命の6林分の平均値はそれぞれ、20.5Mg/ha、3.5Mg/ha/年、6.3年であった。樹冠窒素量、落葉窒素量、窒素滞留時間は、ぞれぞれ、164kg/ha、22kg/ha/年、8.1年であった。樹冠葉量は、収量比数(Ry)の小さい林分で少なく、落葉量はRyの多い林分で大きかった。葉寿命はRyが少ない林分と多い林分で短く、Ryが0.8程度で大きい傾向を示した。これらの結果より、疎な林分では樹冠葉量が小さいために葉寿命が短くなり、過密な林分では葉の生産量が大きいが樹冠葉量に上限値があるために葉寿命が短くなると考えられた。窒素滞留時間については、生葉窒素濃度、窒素引き戻し率、土壌C/N比との間に有意な相関関係は認められなかった。一方、窒素滞留時間と葉寿命には正の相関関係が認められた。以上の結果より、樹冠の窒素滞留時間は、林分の混み合い度に対応した葉寿命の変動の影響を受けると考えられた。


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