| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T05-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

社会学的アプローチの導入とその意義

桜井良(立命館大学)

保全、研究、教育など様々な特徴をあわせもつ市民科学において、市民と研究者との協働は重要な要素といえる。例えば、地域の植生などの生物環境の把握や生物多様性に配慮した保全活動を行ううえで、生態学的な知見は不可欠である。一方で、市民科学の活動をどのように持続的に展開していくか、市民の活動への参加をどのように促すかなどを考える際に、社会科学的知見が必要になってくる。また、市民と研究者との連携を深めるためには、例えばそれぞれの立場の関係者が同じ目標のもとに協働できているか、両者の活動に対する意識がどのように異なるかなどを把握することには意義がある。これまで市民科学に関わる社会科学的アプローチとして、例えば地域における市民参加型活動の社会的意義を考える研究や、市民の保全活動への参加意欲や意欲に影響を与える要因の把握を目指す研究などが行われてきたが、活動に携わる研究者自身の意識について、また、それが市民の意識とどのように異なるのか(あるいは共通しているのか)を明らかにした研究はあまり存在しない。本発表では、研究者と住民の生物多様性に配慮した活動に対する意識の比較調査の結果を紹介する。調査地は、横浜市の花と緑のまちづくり計画モデル地区に指定された都筑区A地区である。調査の結果、住民側は活動を通して花が増加し、街の美化が進み、また住民同士のコミュニケーションが増加することを期待しているのに対して、研究者は生物多様性の重要性の普及などを目標と考えており、両者の意識や優先順位に相違があることが明らかになった。市民科学の取り組みにおいて研究者と住民との協働を円滑に行ううえで、両者の意識の相違を可視化し共有すること、更にこれらを踏まえた役割分担の明確化をすることが重要である。


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