| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T08-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

広域生態系モデルを用いた影響評価

仁科一哉(国環研),伊藤昭彦(国環研)

発表者らのグループは現在、環境省推進費S10 ”地球規模の気候変動リスク管理戦略の構築に関する総合的研究(別名ICA-RUS)”において、生態系モデルを用いた気候変動の生態系影響評価について取り組んでいる。本プロジェクトの一環として、ポツダム気候研究所が主導する分野横断的モデル相互比較プロジェクト(ISI-MIP)に参加し、複数のセクターにまたがる将来の気候変動影響の全体像把握に貢献している。本プロジェクトでは、生態系の他、水循環、農業(作物成長)、農業(農業経済)、健康(マラリア)といった項目の分野において、共通将来シナリオを用いて、一括して評価する試みを行った。発表ではS10やISI-MIPにおいて、生態系影響と生態系に関わる他分野のこれまで得られた知見について紹介し、気候変動影響予測について専門外の人にも理解るように、その枠組みと結果を紹介したい。

気候変動影響は、非常に広範な項目に影響することは明らかであるが、個々の研究で明らかになるのは、一斑全豹(ISI-MIPでは象の故事を用いています)に陥ることがある。このことが全体像評価を目指すモチベーションではあるが、実際にはモデルの結果においてさえ、単一の指標の開発や包括的な理解が難しい。特に陸域生態系においては、気候変動は正負併せ持つ予測結果になる。また生態系影響の予測の不確実性は非常に大きく、これが全体像把握の障害になっている。気候変動影響は常に人間の価値判断が伴う問題ではあるが、本プロジェクトを通して、それ以前に純粋に結果の統合的な把握(情報の要訳、視覚化)において課題が多く残ったという印象を持った。なお、本プロジェクトの計算結果はすべてオープンアクセスになっている。日本からも多くの方に参加して頂き、解析やアイデアによって、こうした状況が打開されていくことを期待する。


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