| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T12-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

特別講演:ネオニコチノイド農薬によるハナバチ類への影響〜世界と日本の最新情報

中村純(玉川大学)

ネオニコチノイド系農薬のハナバチ類への影響評価は,実験動物として容易に入手でき,また管理送粉者として農地で利用されるミツバチを用いてよく調べられている.しかし,実験室内での評価とフィールドでの評価は矛盾することも多く,また飼育状況が影響評価を左右する可能性も無視できない.さらに,活動期間の短い単独性のハナバチ類とは異なり,ミツバチは特定の植物との関係が希薄なゼネラリストでもあり,またコロニーのサイズメリットを活かして環境影響を緩和する生物でもあるため,生態系への農薬の影響を評価する対象動物としての取り扱いには配慮が必要である.

ミツバチが農薬の影響評価で利用されるのは,減少したハナバチの代替として農地の送粉者としての位置づけが大きくなったことの副産物的な位置づけが大きく,ハナバチの問題に置き換えて議論する場面では,一度原点に回帰して,ハナバチがなぜ減ったのかという根本問題を,改めて追求する必要性がある.減少要因がわからないままでは,実験室レベルやフィールド試験で行われているハナバチに対する農薬の影響評価が,ハナバチ類の増加を目指す施策の根拠として充分なものではないことになる.実際,研究事例が比較的多いマルハナバチでは,その減少について,農薬以外にも非常に多様な要因が指摘されており,今後,地域ごとにそれぞれの重み付けが重要な作業になると考えられる.

本講では,現状で知見の多いミツバチについて,全般的な不調要因と目されている多様な事象の中で,特にネオニコチノイド系農薬の影響がどうのように位置づけられているかを概観し,ハナバチ類で今後継続されるであろう影響評価が,送粉者の保全施策にどのように利用されるべきか考える一助としたい.


日本生態学会