| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T12-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

ネオニコチノイド農薬の花粉を介したマルハナバチコロニー毒性

*江川知花(農環研),五箇公一(国立環境研)

近年、世界各地でハナバチ類の個体群密度減少が報告され、その一因としてネオニコチノイド系農薬による影響が疑われている。ネオニコチノイド系農薬は浸透移行性を持つため、植物の根から取り込まれた薬剤が花粉や花蜜にも移行し、それをハナバチ類が巣に持ち帰ることで、コロニー全体に薬剤が暴露するリスクが想定される。日本では、ネオニコチノイド系農薬は箱苗処理剤やカメムシ防除用の散布剤として主に水田で多用されており、イネや畦畔植物の花を介してハナバチ類に影響を及ぼしている可能性が指摘されるが、これまで花粉を介したハナバチ類に対する農薬影響は評価されていなかった。

そこで我々は、クロマルハナバチ商品コロニーを用いて、花粉を媒介したネオニコチノイド系農薬によるコロニーレベルの影響評価を進めている。本発表では、ハウス内で、無処理花粉およびイミダクロプリド含有花粉(20ppbおよび200ppb)に1ヶ月間暴露したクロマルハナバチコロニーのワーカー飛翔数および生殖虫(新女王・オス)生産数の動態を調査した結果を報告する。

無処理花粉を供したコントロール区では、試験開始後ワーカー飛翔数が徐々に増加し、2週間後には生殖虫が出現したのに対し、花粉中濃度200ppb処理区では、試験開始後徐々にワーカー飛翔数が減少し、試験終了まで生殖虫生産は起こらなかった。一方、実際の野外で検出される花粉中の最高濃度である20ppb処理区では、コントロールと比較してワーカー・生殖虫数に明瞭な違いは確認されなかった。

以上の結果は、花粉中の農薬濃度が高ければ花粉を介したコロニー影響が生じるが、実環境における花粉中の濃度レベルではコロニー影響は強く出ないことを示唆する。同様の結果は欧米でも報告されており、今後、様々な薬剤や濃度で反復試験を行い、より詳細に影響評価を行っていく必要がある。


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