| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T14-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

Oから始まったクローナル植物の「空間」構造研究

鈴木準一郎(首都大・理工・生命)

クローナル植物とは、単独で生活史を全うしうる能力を潜在的に有する親ラメットが、地下茎や匍匐枝を介した栄養繁殖により遺伝的に同一な子ラメットを生産する植物の総称である。この特性のため、クローナル植物のラメットは、規則的に空間分布することがあり、その空間構造は、古くから研究されてきた。

20世紀初頭には、植生やその遷移の記述の一部として、クローナル植物の空間構造が言及されることがあった。20世紀の中頃には、クローナル植物の個体の発達過程に注目した空間構造の研究が行われるようになる。特に、同心円状に拡大成長するヒース類に見られる、中心部が枯れた「O」字状の構造について、形成過程を含めた記述がなされた。これを契機として、地下茎の成長様式の記載的な研究は、非常に多く行われた。また、20世紀の後半にはいると、それらの記述に基づいたシミュレーションが行われた。さらに、1990年代以降には、アロザイム酵素やDNA多型をもちいて、空間構造と遺伝的構造を同時に解析する研究が行われるようになった。この試みは、解析技術の発展とコストの低下により、タケ・ササを含めた多様な植物を対象に、広範囲の面積の個体群についても行われるようになって来ている。

一方で、ラメットからなる空間構造が、クローナル植物の生理機能に及ぼす影響については、生理的統合やそれに基づくラメットの分業に関する研究を除くと、ほとんど行われていない。とくに群落光合成に関する実証的・理論的研究をクローナリティと関連づける研究例がほとんどないのは、不思議である。

多様な生態系の構成種の多くが示すクローナリティの理解には、ラメット個体群の機能に対する空間構造の影響を、遺伝構造とともに解析する研究が必要となろう。


日本生態学会