| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T16-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

趣旨説明 土壌動物をめぐる生態学的関心について

長谷川元洋(森林総研 四国)

地下部と地上部の生物群集の相互作用が、一次生産や物質循環等の陸上生態系の機能を制御しており、土壌動物はこの地下部の生物群集の主要な駆動因子であると認識されつつある。

代表的な土壌動物として知られるミミズは、近年日本国内の分類学的整備及びその知識の普及が進み、個体群、群集の形成過程についての研究が急速に発展した。また、ミミズ等の生態系機能についても、単に有機物から炭素を放出する機能から、植物の養分やミネラルに影響する機能や、より長期的には土壌中での貯留機能が重要視されている。

トビムシ、ササラダニ等の中型土壌動物はその個体群の動態や多様な群集構造に焦点を当てた研究が行われてきた。近年、生態系機能に関連した生物の形質(trait)を用いた群集の形成メカニズムが探索されているが、中型土壌動物にもこれを応用した研究が進められている。また、中型土壌動物では、微生物や根系を含む植物との相互作用系での役割が注目される様になってきた。

土壌動物の研究では、サイズが小さい、土のなかで観察しづらい、プロセスに時間がかかる等の問題点が指摘されてきたが、安定同位体や放射性炭素を用いた方法は、上記の問題点を克服し、陸上生態系の物質循環と土壌動物群集の関係について新たな知見をあたえている。また、近年では地球環境変動が、土壌動物の多様性や、分解や養分循環などの生態系のプロセスがどのように影響するかについて、室内、野外での操作実験やモデルを用いて盛んに研究されている。

以上のように、土壌動物の生態学的研究は土壌動物のみを扱う閉じた研究から、様々な生物群集との関係が重視され、ミクロから地球規模の環境との関連を含む幅広いものに変貌している。土壌動物を専門としない研究者たちとの議論を通じ、土壌動物を利用した生態学の更なる前進について考えたい。


日本生態学会