| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T16-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

同位体が解き明かす土壌動物の食性と生態系機能

兵藤不二夫(岡山大 異分野コア)

土壌動物は有機物分解や植物の一次生産に影響を与えるなど、陸上生態系における重要な役割を果たしている。また、多くの陸上生態系において土壌動物は動物の現存量や生物多様性の大部分を担っている。しかし、この多様な土壌動物の個々の種がどのような食性を持っているのか、その生態は十分にわかっていない。その理由として、採餌行動の直接観察が困難であることや、体サイズが微小であることなどがあげられる。本講演では、安定・放射性同位体分析によって明らかにされつつある土壌動物の食性と生態系における機能について発表を行う。これまで野外観察や形態観察、消化管分析では十分にわからなかった土壌動物の食性が、過去10年以上にわたる同位体分析法によって明らかになりつつある。例えば、複数の分類群の土壌動物において、餌資源の微生物による分解(腐植化)の程度に沿った炭素・窒素同位体比の上昇が見られる。また、土壌動物の種間における同位体組成の違いが、ミミズやシロアリ、アリやクモ、ササラダニ、トゲダニなど多くの分類群において確認されている。この結果は、多くの土壌動物における種間の食性の違いを示している。生物の同位体組成は食う食われる関係を含む生物地球化学的過程で決まっているため、これら土壌動物の同位体組成の違いは種ごとの異なる生態系機能を示していると考えられる。さらに近年では、放射性炭素を用いることで、動物が何年前の光合成産物を餌資源として利用しているかを推定する研究も行われている。放射性炭素分析の結果、熱帯雨林の様々な捕食者で古い餌資源の利用が見られた。このことは、土壌動物は多くの捕食者の餌資源として利用されることで、熱帯雨林の食物網を支えていることを示している。


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