| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T22-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

知床におけるケイマフリおよび海鳥の保全活動

福田 佳弘(知床海鳥研究会)

知床ウトロ海域におけるケイマフリの生息数の推移と保護活動について

知床海鳥研究会 福田佳弘

ケイマフリ</Cepphus carbo> はウミスズメ科に属する海鳥で,日本国内では東北地方の一部・北海道では天売島・根室半島周辺・知床半島そして北方領土で繁殖し,環境省(2006)では絶滅危惧Ⅱ類に指定されている.

繁殖地の一部である知床は,2005年(11年前)に世界自然遺産に登録される前後から観光客が増加し高速航行する小型の観光遊覧船(以下,小型観光船)が増便されていった.高速航行する小型観光船が,繁殖する崖に接近し生息する海域を航行し影響を与えていた.

最大個体数が2002年から2006年までは140羽から130羽前後で推移していたが,2007年から2011年は107羽から93羽となり生息数も減少した.

知床海鳥研究会としては小型観光船の航路規制を望んだ,環境省が話し合いの場をつくり何度も観光船業者と話し合ったが,観光船業者と対立するだけで解決の糸口をつかむことが出来なかった.

その後,環境省側からケイマフリの保護をテーマに「規制に頼らない保護の仕組み」,利害関係が異なる様々な立場の関係者(行政,専門家,漁業者,観光船,観光利用客)の「全ての関係者にメリットを見出すWin-Winの関係づくり」が提案された.観光船業者も少しずつケイマフリの希少性を理解し観光資源としての利用も考えるようになった.その後,ケイマフリの保護と利用をそれぞれの関係者が同じ目的を持って活動できるようになり,「知床ウトロ海域環境保全協議会」を立ち上げた.現在では,行政と民間の連携,異業種間の協力そして保護側と利用側との協力など,「ケイマフリの保護」をシンボルとして多様な立場で問題を共有し,知床世界自然遺産地域としてふさわしい,持続的な海域の利用と野生動物の保護を同時に目指して行こうとする取り組みが行われている.


日本生態学会