| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T24-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

海底堆積物の環境パラメータと底生生物との関連

野牧秀隆(海洋研究開発機構)

海底堆積物は、後背地、海洋表層から供給される鉱物と有機物からなる、多様な堆積物粒子で構成されている。また、堆積物表層から深部に向かい、有機物の好気分解に伴うさまざまな溶存化学物質の濃度勾配が存在する。堆積物中に生息する生物は、それらの多様な環境に応じて生息していると考えられているが、堆積物中の環境要素を多面的に解析し、生物分布と比較検討を行った例は限られている。

我々は、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震と津波による海底の擾乱が、堆積物中の環境と微生物や線虫、カイアシ類の分布にどのような影響を及ぼしたのかを、水深300-900mの8地点から採取した堆積物の分析から明らかにした。

調査した8地点すべてにおいて、厚さ1-7cmのイベント堆積物が存在し、堆積物中の粒度や有機物濃度のプロファイルに影響を与えていた。微生物細胞数や線虫の個体数は、通常の深海底とは異なり、最表層で少なく亜表層で高いという傾向を示した。微生物、線虫、カイアシ類の個体密度を説明する環境要因について統計解析を行ったところ、微生物細胞数については堆積物の淘汰度と粒度、カイアシ類については酸素濃度とアンモニウムイオン濃度、線虫についてはアンモニウムイオン濃度が主要な環境要因とされた。微生物、線虫ともに亜表層に分布の極大を示すものの、その支配要因は異なり、微生物については海底の擾乱による粗粒堆積物の堆積が、線虫については有機物の再堆積などに伴うアンモニウムイオン濃度の変化などが分布に影響を与えたことが示唆され、生物分布に影響を及ぼし得る環境要素を複合的に調査することの重要性が示された。


日本生態学会