| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第63回大会(2016年3月,仙台) 講演要旨


日本生態学会宮地賞受賞記念講演 3

テングザル研究:パワーエコロジーに未来はあるか?

松田 一希(京都大学霊長類研究所)

 パワーエコロジーという造語は、「面白いと思うならやってみろ」、「頭はついてりゃいい、中身はあとからついてくる」、「生態学は体力と気合だ」、「生態学にカミソリは必要ない、必要なのはナタだ」という恩師の口癖に由来する(佐藤・村上共編、パワー・エコロジー、海遊舎)。知恵はないが、体力とやる気だけは旺盛だった私は、この言葉に励まされ、ボルネオ島でテングザルの研究を開始して、今年で11年目へと突入した。仮説・検証型の研究が主流の昨今において、それとは真逆の手法で突き進んできたわけだが、当初は謎に包まれていた、テングザルという未知の霊長類の生態、社会構造の一端が明らかになってきた。また、霊長類で初めとなる反芻行動も発見した。そして今、パワーエコロジーに端を発したテングザル研究は、生態学、人類学、音響学、生理学、遺伝学、微生物学、保全学などの様々な研究者を巻き込みながらの多様なプロジェクトを展開している。本講演では、今までのテングザル研究とその成果を概説するとともに、パワーエコロジーという一見すると非効率な精神概念の重要性とその高い可能性を、自分の研究を信じて、今まさにフィールドで泥にまみれて研究していている学生や若手研究者たちに伝えたい。

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