| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) B02-02  (Oral presentation)

日本における沿岸魚類の多様性パターン

*塩野貴之(琉球大・理), 安室春彦(琉球大院・理工), 楠本聞太郎(琉球大・戦略研センター), 久保田康裕(琉球大・理)

東アジア島嶼の周辺海域は海洋生物多様性のホットスポットとして知られている。しかし、生物多様性の地理的パターンは十分に分析されていない。経験的には、東アジア島嶼周辺の海水温分布やハビタット異質性が、多様性パターンを決定する重要な因子と考えられている。さらに、東アジア島嶼特有の地史や古気候も、現世の海洋生物多様性パターンに影響を与えていることが予想される。したがって、本研究では、沿岸魚類をモデル分類群として、海洋生物多様性のパターン形成における現世の環境要因と歴史的な環境要因の相対的重要性を検証した。まず、日本領海に生息する沿岸魚類3193種について約35万件の分布情報を収集し、20km×20kmグリッドの精度で種数(アルファ多様性)分布を明らかにした。そして、現世の環境要因として、各グリッドにおける海水温、栄養塩量、流入する河川の流域面積、海域面積、沿岸長、平均水深、水深の標準偏差、歴史的な環境要因として、各グリッドの最終氷期最盛期と現世の海水温較差、最終氷期最盛期における海水域までの距離および黒潮流軸からの距離、エコリージョン区分に関するデータを、それぞれ編集した。これらより、グリッドのアルファ多様性およびグリッド間の種組成の差異(ベータ多様性)を応答変数、現世環境と歴史的環境の変数を説明変数として、回帰分析を行った。その結果、アルファ多様性には海水温と環境の異質性、ベータ多様性には海水温の差異が、それぞれ強く相関していた。また、歴史的要因の影響は限定的だった。このことから、東アジア島嶼の沿岸魚類多様性パターン形成には、歴史的要因の効果は小さく、海水温に代表される現世の環境の影響が強く作用していることが示唆された。


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