| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) B02-03  (Oral presentation)

分子系統と地誌から辿る日本の淡水魚類相の形成過程とそれに関与した大陸産魚種

*岡崎登志夫(東京大学), 谷口昇志(東京大学), 指田昌樹(東京大学), 田祥麟(祥明大學), 岸野洋久(東京大学)

 アジア大陸の東に位置し、およそ1600~1800万年前に大陸から分離した後、地殻変動や氷期の海水面低下により一時的に大陸との接続が繰り返された日本列島は、生物地理学にとって格好の研究素材を提供する。現在の日本の生物相は在来のものに加え、その後に大陸産の影響を受けたことによって成立したものと考えられている。これらの地域に共通して分布し、海水を通じての分散が不可能な純淡水魚から得られたmt-DNAの分子系統樹に基づき、最尤法の枠組みで両者の交流の過程を検討した。

 その結果、最初に大陸から分離された際に列島に取り残された集団が、その後再度の接続時に侵入した集団に置き換えられつつあるという現象が認められた。このことは、分類学的には同種内の集団とされているものの間にも優劣の関係があることを示すものである。さらに、多くの魚種で集団の主要な分化は大陸側で起こり、その一部のみが接続時に日本に侵入したことが確認された。また、日本海の開裂時期に基づいてベイズの枠組みで求めた分子進化速度から大陸から日本への侵入時期を推定した。

 これらの点から日本列島は東アジア地域における淡水魚の拡散のいわばデッドエンドに当たっていると考えられ、魚種間に共通する大陸から日本への侵入パターンとその影響を受けた日本列島におけるほぼ全種の淡水魚類相の形成過程を考察する。


日本生態学会