| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) B02-08  (Oral presentation)

環境DNAの分解とサイズ分画に及ぼす水温の影響

*徐寿明(神戸大・人間発達環境), 村上弘章(京都大・フィールド研舞鶴), 余田昂彌(京都大・フィールド研舞鶴), 尾形瑞紀(京都大・フィールド研舞鶴), 山本哲史(神戸大・人間発達環境), 益田玲爾(京都大・フィールド研舞鶴), 源利文(神戸大・人間発達環境)

環境DNA分析手法を用いた非侵襲的、広範囲、そして迅速な生物相モニタリングの例が近年数多く報告されているが、その一方で環境DNAの由来や構造・動態に関わる基礎情報についての知見は欠如している。本手法のさらなる発展のためにも、これら基礎情報の集積は非常に重要な課題である。本研究では、水温が環境DNAの放出や分解、サイズ分画に及ぼす影響を明らかにし、環境DNAの水温別の放出傾向と放出後の動態に関する情報を蓄積することで、本手法の精緻化に資することを目的とした。
4つの水温区(13℃、18℃、23℃、28℃)に分けてマアジ(Trachurus japonicus)を飼育した後、魚を水槽から引揚げ、時系列的な環境DNA濃度の変化を観察した。また、水槽水中の環境DNAを4つのサイズ区(10μm以上、10~3μm、3~0.8μm、0.8~0.4μm)に分離し、それぞれの濃度を計測した。その結果、マアジを引揚げた直後には18℃および23℃区で最も環境DNA残存量が高かったのに対して、引揚げから8時間後には13℃区で環境DNA残存量が最も高くなり、対照的に28℃区では残存量が最も低かった。加えて、引揚げからおよそ1日までの分解は急激であったのに対して、以降の分解は比較的緩やかであった。また、全ての水温区について、検出された環境DNA量の50~60%は、直径3~10μmの範囲に集中していた。
以上の結果から、環境DNAは個体の生息に最適な水温で多く放出され、かつ高水温ほど分解されやすいと考えられる。また、3~10μmの範囲で環境DNA濃度が高かったことから、検出される環境DNAの多くは、細胞や細胞小器官クラスの大きさで環境中に放出され、この傾向は水温によらずおおよそ一定であることも推測される。一方で、先行研究とは異なる環境DNAの2段階の分解プロセスの可能性も本研究では示唆された。これが環境DNAの由来や状態の違いによって生まれるものなのかどうか、今後の研究により明らかになるかもしれない。


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