| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) C01-05  (Oral presentation)

止まらないアメリカザリガニの分布拡散と水生昆虫への新たな影響事例

*北野忠(東海大学教養学部), 西原昇吾(中央大学), 苅部治紀(神奈川県立生命の星・地球博物館)

 これまで演者らは、アメリカザリガニが水辺生態系に与える影響について各地で調査してきており、論著や複数の学会で発表してきた。しかし、本種の分布拡大は留まることなく、新たな影響事例も生じている。そこで今大会では新たに得た知見について紹介する。
 本種は、すでに北海道から沖縄県までの侵入が確認されているが、南西諸島では沖縄島以外の島嶼では確認されていなかった。しかし近年、新たに奄美群島の2島、八重山諸島の石垣島でも本種の定着を確認している。特に石垣島では、現在のところ確認水域は1ヶ所のみであるが、下流にはダムがあり、そこを拠点に拡散する恐れがあるほか、家族での釣り遊びも目立ち、西表島への持ち込みも危惧される状況にある。沖縄島も世界遺産登録を目指す山原地域のダムに定着しており、深刻な状況である。
また、新たな本種の侵入・個体数の増加により希少水生昆虫が減少・絶滅した事例も報告する。静岡県浜松市では、絶滅危惧種ベッコウトンボの生息地でアメリカザリガニの個体数が激増した。2万頭を超える駆除を行ったが個体数の抑制ができず、ベッコウトンボが絶滅した。このほか、三重県伊賀市においてカワバタモロコや希少水生昆虫が多く見られた池で、やはりアメリカザリガニが侵入後激増し、コウホネなどの水草とともに、カワバタモロコが激減、ゲンゴロウ類は普通種も含めてほぼ見られなくなった。
アメリカザリガニは、本学会によって「日本の侵略的外来種ワースト100」に選定されているほか、外来生物法において緊急対策外来種に指定されたが、特定外来生物の指定ではないことから、未だに飼育や販売などの規制はない。しかし、今回も報告したように、分布拡散が継続している状況と本種の生態系に与える影響を鑑みると、特定外来生物に指定し、対処することは急務と考えられる。


日本生態学会