| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) C01-06  (Oral presentation)

2015年の悪石島における外来種ミナミイシガメの甲長、性比および推定個体数

*嶋津信彦(しまづ外来魚研究所, 放送大学), 山川彩子(沖縄国際大学)

悪石島は, 南西諸島トカラ列島の中頃に位置する火山島である.悪石島のミナミイシガメMauremys muticaは,外部形態から八重山諸島を自然分布域とする亜種ヤエヤマイシガメM. m. kamiに同定されている.昭和初期から記録されているが,悪石島と八重山諸島の間に同亜種の自然分布が認められないため,外来生物である可能性が高い.2015年9月9日12時から12日7時までに悪石島の湯泊の池において,誘引餌にサンマの水煮と採集動物の溺死防止用にペットボトルを入れたカニ網3個を計6回設置・回収した.回収時刻を6–7時と17–18時とし,最終回を除き回収直後に再設置した.採集された個体について,背甲長を計測,性を判別し,個体識別のために腹甲の模様を撮影して放流した.調査期間中にヤエヤマイシガメは,雌93,雄11,計104個体が採集され,うち雌29,雄10個体が1–5回再捕された.生息個体数は,シュナーベル法で雌142,雄11,計153個体と推定された.本種では卵内発生時の温度が高いほど雌に分化する割合が高いとされ,調査池周辺には噴気帯や温泉があることから,悪石島の集団は,地熱の影響で性比が著しく雌に偏っていたと考えられる.背甲長は,128.4±7.8(108–156)mm(平均±標準偏差(最少–最大))であった.悪石島の集団は,他の島の集団と比べて体サイズが小さく,生息密度が高いと推測された.背甲長100 mm以下の個体は,激しい種内競争で生残率が低くなり,採集されなかったのかもしれない.悪石島のヤエヤマイシガメは,生息個体数が少なく,性比が著しく雌に偏るため,開発や干ばつ,乱獲などの撹乱により雄がいなくなり,絶滅する可能性が高い.さらに撹乱がない場合でも雄が新規加入できずに絶滅する可能性がある.


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