| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-01  (Oral presentation)

ハエ類によるシカ死体の分解

*末吉昌宏(森林総合研究所九州支所), 堀野眞一(森林総合研究所), 上田明良(森林総合研究所九州支所)

ニホンジカの増加により様々な農林業被害や自然植生への深刻な影響が顕著になった。多くの自治体はシカの管理計画を策定し、個体群管理を行っている。従来、捕獲したシカ個体の処理に森林外への搬出、埋設、焼却などが必要であったが、2015年に法改正が行われ、一定条件下でニホンジカを捕獲場所に放置することを自治体が許可できるようになった。しかし、放置した個体の分解過程や周辺の野外環境への影響の程度について十分な科学的根拠がまだ示されていない。双翅目昆虫(以下ハエ類)は主に森林に生息する昆虫類であり、一部のハエ類は動物死体や獣糞の分解者として機能している。また、これらのハエ類には人間の生活に被害を及ぼす衛生害虫が多く含まれる。放置された個体の分解に関与するハエ類相と、死体の放置によって衛生害虫が増える可能性を明らかにするため、2015年12月、2016年5月、2016年7月に栃木県内の森林および草地に合計40個体の死体を放置し、それらの分解過程を観察した。死体に飛来するハエ類と、死体が分解されたのち羽化するハエ類をそれぞれ捕虫網と羽化トラップで捕獲した。その結果、死体の分解に関与するハエ類が少なくとも12科30属50種11600個体飛来した。飛来個体数・羽化個体数ともに多かったのはフンコバエ科、クロバエ科、ツヤホソバエ科、チーズバエ科であった。これらのうち、成虫の体長が5mm以上となるクロバエ科が死体の分解に大きな役割を果たしていた。春から秋までの期間、死体は1週間ほどでほぼ白骨化し、この分解にホホグロオビキンバエが大きく関与していた。また、冬の期間はオオクロバエが多く見られたが、白骨化するまでに約3か月を要した。この期間は多くのハエ類の活動に適さない低温(平均気温2-3℃)であったため、ハエ類が分解に果たす役割は限定されていた。放置の実際は白骨化までの期間と衛生害虫の増殖に伴う利点・欠点のバランスを考慮して行われる必要がある。


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