| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) D02-04  (Oral presentation)

生物の共存に果たす密度依存の重要性:非線形時系列解析を用いた動的群集での検証

*川津一隆(龍谷大・理工), 長田穣(地球研), 石井弓美子(国立環境研究所), 近藤倫生(龍谷大・理工)

「種間相互作用が群集動態を駆動する」という種間相互作用論は現在の群集生態学における主要なドグマである.なかでも,機能の反応のように,関わる生物の量に依存して変化する密度依存的な相互作用は系の存続に大きく影響するため,多種共存の議論において注目され続けている.しかしながら,密度依存性が種の共存に果たす役割を現実の生態系で検証することは実はとても難しい.その理由は次の三点に尽きる.まず,種間相互作用が単一の‘モノ’ではなく無数の個体間相互作用の集合であることから来る観測の困難さ.次に,密度依存性が生み出す非線形で複雑な動態を解析することの困難さ.最後に,密度依存性という‘コト’を野外で操作することの困難さである.
演者らは,上記の問題の突破口として非線形時系列解析の一手法であるEDM(Empirical Dynamic Modeling)に注目した.具体的には,EDMを発展させることで相互作用の密度依存性を検出し,さらに検出された密度依存性を実際の時系列データ上で操作可能にする解析の枠組みを開発した.それらの手法を古典的な室内実験系であるマメゾウムシ実験系に応用したところ,1)2種のマメゾウムシによる競争実験では,競争の劣位種は優位種から(自種)密度逆依存的な負の影響を受ける,2)競争系に共通の寄生蜂を導入した3種系では,寄生蜂は劣位種に対してスイッチング捕食に似た効果を与える,ということがわかった.さらに,これらの密度依存性を変化させたところ,相互作用の符号と密度依存性から期待される方向に劣位種の存続時間が変化することが明らかとなった.本講演ではこれらの結果を紹介するとともに,自然生態系への応用の可能性についても議論する.


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