| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) D02-07  (Oral presentation)

屋久島火山灰土壌における樹木細根滲出物が根圏土壌のリンに与える影響

*向井真那(京大・農), 相場慎一郎(鹿大・理工), 北山兼弘(京大・農)

火山灰土壌はリンを強く吸着するので、農地ではリン欠乏を起こすと考えられてきた。これは、火山灰土壌の主成分である二次鉱物の非晶質鉱物類(以下アロフェン)が配位子結合によって土壌中のリン酸イオンと結合しているからである。一方、森林土壌においても火山灰土壌の特徴は広くみられるが、そのような森林でリン欠乏が生じるという報告はない。そこで、本研究では、火山灰土壌に生育する樹木はアロフェンに吸着したリンを獲得できる能力をもつという仮説を立てた。この仮説の検証のため、樹木細根からの滲出物と根圏土壌の関係性に着目した。特に、本研究では、先行研究よりアロフェンを溶解させると考えられる、有機酸(クエン酸、マレイン酸など)に着目した。樹木は細根から滲出物を分泌して土壌の化学組成を変化させることが知られている。屋久島の火山灰土壌の特徴が見られる森林調査区において、優占樹種上位5種5個体から細根の滲出物を採取し、8種類の有機酸の分泌速度を調べた。また、それぞれの個体から根圏土壌と非根圏土壌を採取し、その化学組成を調べた。樹木細根からの有機酸分泌速度は樹種によって異なり、PCA解析の結果、その組成も樹種により異なっていた。細根からの滲出物の影響を受け、根圏では非根圏に比べて土壌pHは有意に下がっていた。アロフェンの指標となる、シュウ酸アンモニウム抽出のAl ・Fe・Si (Alo, Feo, Sio) はどの樹種でも根圏で濃度が低下していた。その一方で植物が利用可能な可給態のリンは根圏で濃度が増加していた。以上の結果は、樹木が細根から有機酸を分泌し根圏土壌のアロフェンを溶解させることで、吸着していたリンが遊離し、樹木はそれを利用している可能性を示す。その一方で、アロフェンに吸着したリンを獲得するための滲出物への投資は樹種により異なることも示された。


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